大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(ま)16号 決定

よつて当庁昭和二十六年(う)第五八八〇号詐欺及び殺人被告事件(長野地方裁判所松本支部昭和二十五年(わ)第二二三号詐欺被告事件及び同年(わ)第二五一号殺人被告事件)記録を精査するに、被告人に対しては長野地方裁判所松本支部に先ず昭和二十五年十月九日同庁昭和二十五年(わ)第二二三号詐欺被告事件が起訴され、次いて同年十一月十五日同庁同年(わ)第二五一号殺人被告事件が起訴され、後者は前者に併合して審理の結果、同裁判所は昭和二十六年十一月十日被告人に対し詐欺及び殺人被告事件につき懲役十三年(未決勾留日数中三百日通算)の判決の言渡をした。これに対し被告人及び原審弁護人久保田由五郎並びに原審検察官からそれぞれ控訴の申立があり、東京高等裁判所は控訴審として(昭和二十六年(う)第五八八〇号詐欺殺人被告事件)審理を遂げ昭和二十七年七月八日原判決を破棄し詐欺の所為につき懲役二年(原審の未決勾留日数中三百日通算)殺人の所為につき無罪、検察官の控訴を棄却する旨の判決の言渡の判決をしたところ、無罪及び控訴棄却の部分は上告の申立なく法定の期間経過とともに確定し、有罪部分に対しては被告人から上告の申立をしたところ、昭和二十八年七月二十四日最高裁判所において上告棄却の決定により確定した事実、この間被告人の身柄については長野地方裁判所松本支部においていずれも起訴当時即ち昭和二十五年十月九日詐欺罪につき勾留状を発し、次いで同年十一月十五日殺人罪につき勾留状を発し、右二通の勾留状による勾留はいずれもそれぞれその後数次の勾留更新決定により更新継続せられ昭和二十七年二月十八日東京高等裁判所においてなした保釈決定により右詐欺罪による勾留並びに殺人罪による勾留はともに停止されるに至つたことが窺われる。即ちこれによれば右両者の勾留は当初の昭和二十五年十月九日から同年十一月十四日迄の詐欺罪のみによる勾留を除外すれば同月十五日から昭和二十七年二月十八日に至る迄の勾留は前記の通り勾留状二通による競合のものであることが明らかであるから、たとえ所論のように右殺人被告事件が無罪となり該事件による勾留が理由がなかつたことに帰したとしても請求人に対し有罪として懲役二年の刑の確定した詐欺罪に関する被告事件のためになされた勾留は全く法律上勾留の要件を充しているものと認められるのであるから刑事補償法第三条第二号に該当し裁判所はその健全な裁量によりその全部又は一部の補償をしないことができるものと認められる。而して記録を調査するに本件殺人事件は起訴事実によると請求人の実母を被保険者として締結した生命保険契約に基き保険金を騙取したという右詐欺被告事件に端を発し請求人が右被害者である明治生命保険相互会社から右保険金の返済方請求されていた事実が誘因となり、これがために請求人自ら斡旋且つ出捐して渡辺利実の末弟鐘人を被保険者とする生命保険契約を大和生命保険会社との間に締結した上、これを殺害して前同様保険金を不当に私得せんとしたというのであつてこの二つの被告事件は全然関係のないものでなく右のように相互に緊密な因果の関係が存するものとして起訴せられたものであることが窺われるのであるが、右公判審理によつて明らかにせられたところによると請求人は右鐘人を被保険者とする生命保険契約を締結した後同人とその兄稔を魚釣に誘い請求人方に一泊させて翌日昼食後同人等に更に魚釣りをさせ右鐘人が田川の淵で溺死する直前迄行動を共にし、その間右稔に十円を与え釣針を買いにやりその後しばらくの間に右鐘人が前記のように田川の淵で水死していたという事実が推認できるのであるからこの間の請求人の行動につき前記詐欺事件に関聯して捜査官憲が一応疑問をいだくに至つたであろうとも考え得るのであつて必ずしも所論のようにこれを以て単に風評や憶測のみによつて捜査をすすめたものとして直ちに検察官の側にのみ全責任を負わすべきものとすべきであるとも考えられないことであり、又右に述べたような事情があるから本件公判手続においても事案の性質上、右両事件を分離して審理をすすめるべき筋合のものでなく、これを併合の上審理判決するに至つたことも必ずしも不当の措置であつたと謂うべきではない。勿論右殺人被告事件の起訴がなかつたとしたら勾留の期間が更らに短縮せられたであろうことも考えられることではあるが、以上の諸事情を充分に参酌して前に説述したとおり本件無罪となつた殺人被告事件の勾留期間が全く有罪に確定した詐欺被告事件の勾留期間と競合しており殺人罪のみに対する勾留期間が皆無であること並びにその未決勾留日数中の大半に当る三百日が右詐欺罪の刑に通算される旨の言渡を受けておる等両者の勾留の実質的な関係を考慮するときは、被告人の殺人罪に関する勾留に対しては刑事補償法第三条に則り特に全部の補償をするを要しないものと認めるのが妥当であると考えられるのであるから結局本件請求は失当であるに帰し棄却を免れない。

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